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「近くにある」だけで脳が意識、スマートフォンは生産性の天敵
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「近くにある」だけで脳が意識、スマートフォンは生産性の天敵

2017.12.19

 
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スマートフォン依存が生産性を減退させるとよく指摘されていますが、シカゴ大学の研究グループが発表した最新調査によると、スマートフォンを使わない時間を設けても、近くに置いてあるだけで存在が気になり、集中力や思考力、判断力の妨げになることが明らかになりました。それほど深く私たちの生活に浸透しているスマートフォン。便利に使いながら、スマートフォン依存を避けるソリューションとは?

山下洋一

スマートフォン断ちできますか?

プロダクティビティに興味がある人なら、デジタルデトックスという言葉を聞いたことがあると思います。デトックスとは、体内にたまった毒物を排出する健康法です。転じて、スマートフォンやパソコンを使わない時間を決めて「脱デジタル」するのがデジタルデトックスです。
スマートフォンはとても便利で人々の生活を豊かにするツールである一方で、スマートフォン依存に陥ってしまうと逆に生産性の減退を招くことが、すでに様々な調査で明らかになっています。

  • ・着信していないのにも関わらず、着信音や通知音が聞こえたような気がする。
  • ・電波が届かない、または届きにくいところにいると不安になる。
  • ・Facebookなどに書き込むネタを求めて行動してしまう。
  • ・時間の浪費になると分かっていても、ついスマートフォンを眺めて過ごしてしまう。

こうした傾向が現れ始めたら、ネット依存またはスマートフォン依存に注意が必要。解消するには、強制的にスマートフォンを使わない時間を作ることです。でも、パソコンはともかく、スマートフォンを持たずに長い時間を過ごせるでしょうか?

使わないだけではデジタルデトックス効果なし

シカゴ大学の研究グループが発表した「Brain Drain: The Mere Presence of One’s Own Smartphone Reduces Available Cognitive Capacity」によると、スマートフォンは私たちが意識している以上に深く私たちの生活に浸透しています。たとえスマートフォンに触れない時間を作っても、人々はスマートフォンの存在を意識してしまい、それだけで生産性や判断力の減退が起こるそうです。
研究グループは520人の大学生の参加者を「机の上」「ポケットまたはカバンの中」「別の部屋」にスマートフォンを置いた3つのグループに分けて、計算、記憶、論理的思考などの簡単なテストを受けてもらいました。
その結果、「ワーキングメモリー」(短時間で情報を記憶し、同時に処理する能力:会話や計算などを支える)や集中度の目安になる項目は、別の部屋にスマートフォンを置いている方が机の上よりも10%も高いスコアでした。また、新たな問題を解決したり、新しい場面に適応する能力となる「流動的知性」を測定する項目は別の部屋の方が机の上よりも約6%高スコアでした。ポケット/カバンの中に入れておいた場合は、流動的知性は大きく減退しないものの、ワーキングメモリーのスコアは机の上に近いほど低いスコアでした。
目の届く範囲にスマートフォンがあるだけで、その存在を意識して集中力や認識力、思考力が減退してしまいます。特に短時間で素早い判断を求めるテストで机の上にスマートフォンを置いたグループはスコアが低く、また電源をオフにして画面を伏せて置いても目の前にあると能力は減退しました。たとえ目の前にはなくても、ポケットやカバンの中などすぐ近くにあると存在を意識してしまいます。手の届かないところに置いてようやく存在意識が薄れ、別の部屋に置いてある場合だと、電源オフにしてもスコアがわずかに向上する程度でほとんど変わりません。

「机の前」「ポケット/カバンの中」「別の部屋」にスマートフォンを置いた3グループの、ワーキングメモリーと流動的知性に関するテスト・スコア(出典:The University of Chicago Press Journals)

だから、ミーティングの時に目の前にスマートフォンを置いておいたら、たとえ操作しなくても、優れたアイディアを出せるチャンスを逃しているかもしれません。コーディングや書類作成などに集中したかったら、スマートフォンは電源オフにして目の届かないところに置いておくことです。
でも、スマートフォンには、緊急の連絡や何を置いても対応しなければならない連絡が飛び込んでくる可能性があります。短時間で終わると分かっているテスト程度ならともかく、長時間にわたる作業でスマートフォンを完全に断ってしまうのはリスクをはらみ、その不安が集中力や認識力に悪影響を及ぼす可能性も否めません。ジレンマです。

Appleが出したiPhoneキラー

Appleがスマートウォッチ「Apple Watch」にLTE対応の「Apple Watch Series 3」を追加しました。単体でデータ通信を行えるスマートウォッチはこれまでにもありましたが、Apple Watchは従来と同じコンパクトなサイズのままLTEによるデータ通信を可能にしています。
とはいえ、Apple Watchを含む多くのスマートウォッチは、データ通信対応になっても使用する上で母艦となるスマートフォンが必要です。スマートフォンを持ち歩くなら、スマートフォン経由でスマートウォッチがデータ通信できます。月々のデータ通信料を支払ってまで、データ通信機能を持ったスマートウォッチにする必要はあるのでしょうか? スマートウォッチのデータ通信機能はどのような時に役立つのでしょうか?
発表会でAppleは、湖上でパドルボードを漕いでいる人と音声通話をするデモを披露しました。つまり、スマートフォンを持って行けない場所、両手がふさがっていてスマートフォンを操作できない時でも、スマートウォッチを使って通知の確認やメッセージのやり取り、音声通話などが可能になるというわけです。

Appleはイベントでパドルボートを漕いでいる間でも音声通話ができることをアピールしたが…。

ところが、Apple Watch Series 3が発売されてしばらく経ってみると、別の使い方、これまでスマートフォンを使用できなかった場所やシチュエーションでもネットや通話機能を使うためではなく、これまで使えていた場所でネットや電話を遠ざけるために活用するユーザーが現れ始めました。本当に重要なコンタクトからのメールやメッセージ、通話だけがスマートウォッチに届くように設定しておいて、スマートフォンは手の届かないところに置いておきます。スマートウォッチでできることは限られるので、気を取られることはありません。大切な連絡は逃さず、目の前の作業や仕事に集中できます。スマートウォッチを賢く使ったスマーフォン断ちです。
スマートフォン市場が成熟期に入り、ポスト・スマートフォンが話題になり始めていますが、今はまだスマートフォンに代わるパーソナルデバイスなど想像もできないのが現状です。一方で、パーソナルデバイスの役割がスマートフォンに集中し、あまりにもスマートフォンが不可欠な存在になりすぎた弊害が目につくようになってきているのも事実。スマートフォン・キラーと呼べるような製品を、スマートフォン市場を開拓したAppleが出してきたのが、その証拠です。売上全体におけるiPhoneの売上高は約55%、誰よりもスマートフォンに依存しているAppleだからこそ危機感を抱いているのでしょう。見方を変えると、スマートフォン依存の解決がポスト・スマートフォンに進む糸口であり、人々がスマートフォンに囚われている状態から、クラウドをハブにパーソナルなユビキタス環境を実現するところに、これからのチャンスが広がります。

原稿: 山下洋一
サブカルチャーとテクノロジーの交差点に軸足を置いて、人や会社、文化、時事問題など幅広く取材しています。シリコンバレーで暮らし始めて10数年。PC産業の街がウェブ・ITの一大拠点に姿を変えるのを目の当たりにしてきました。ダイナミズムと人の面白さに魅了されて、このカリフォルニアの田舎街から離れられずにいます。

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