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元"ウォール街の狼"が立ち上げた特殊なビジネス特化型SNS

2017.11.24

 
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過去の職歴やスキルが申し分なくても、犯罪歴が記録されていたら大きなマイナスポイントになります。それだけで採用候補から外されることも珍しくはありません。犯した罪を反省して真面目に働こうとしていても、それを証明するのは困難。そんな人材に適材適所の活躍の場を与えられれば、人材不足が深刻化する昨今、経済的な効果も大きいはずです。そこでウォール街で株式ブローカーとして活躍したリチャード・ブロンソン氏が70 Million Jobsという新サービスを開始しました。犯罪歴のある人たちのためのSNSです。

山下洋一

実刑判決で人生が一変

第86回アカデミー賞で6部門にノミネートされたマーティン・スコセッシ監督作品「ウルフ・オブ・ウォールストリート」を覚えていますか。レオナルド・ディカプリオ主演で、ウォール街の株式ブローカーの成功と破滅を描いた実話に基づいた作品です。その舞台となったStratton Oakmontという証券会社のパートナーだったリチャード・ブロンソン氏が立ち上げた「70 Million Jobs」という新会社が、インキュベータ「Y Combinator」の「Demo Day」 (8月21日〜23日)に参加しました。同氏は、Stratton Oakmont時代に証券取引法違反で実刑判決を受けたリアルな”ウォール街の狼”でした。
70 Million Jobsは犯罪歴のある人たちのための LinkedIn、スネに傷持つ人たちが職を得るのを支援するソーシャルネットワークサービス(SNS)です。立ち上げたきっかけは、もちろんブロンソン氏が服役した体験です。刑期を短くするために同氏は不正行為で与えた損失を可能な限り賠償しました。資産はなくなりましたが、自分だったら再び活躍できると信じていました。ところが、22ヵ月の刑期を終えて、そんな自信はもろくも打ち砕かれてしまいました。思ったような仕事のオファーがないどころか、自分の力をアピールする機会すら与えられずに困窮し、思い描いていた人生プランから離れて、犯罪歴を持つ人たちの自立を支援する非営利組織で働き始めました。そこで自分だけではない厳しい社会復帰事情を目の当たりにし、70 Million Jobsの起業に乗り出しました。

3人に1人は罪の記録あり

米国では犯罪歴や逮捕歴を簡単に確認でき、求人申込者の絞り込みに必ず用いられています。たくさんの求職者が「自分は大丈夫」と思っていますが、学生のマリファナ所持のような前科にならない比較的軽い罪でも記録に残されているので、犯罪歴のある成人が7,000万人 (70 million)もいます。成人3人に1人の割合です。罪が軽くても、雇用側が人材を見極める早い段階で用いるため、いきなり罪の有無だけでふるいに掛けられることが少なくありません。同じ条件でも罪の記録が残っていたら求人への申し込みに返事がある割合は白人で半分、黒人だと1/3にまで減少してしまうそうです。
犯罪歴がある人が再び罪を犯す可能性が高いことを考えると、雇用側がそれを大きなマイナスポイントと見るのは仕方がありません。しかし、犯罪歴を理由に問答無用で門戸を閉ざしていては、雇用側も会社の利益になる人材を見過ごしてしまう可能性があります。犯罪歴・逮捕歴がある人は7,000万人もいるのですから。
犯罪歴を持つ人が必ずしも職能で劣るわけではなく、まだ若かったり、逆に過去の職歴やスキルを持っているなど戦力になる人材がたくさん含まれます。本気で社会復帰を目指している人たちは、簡単に仕事を得られないことを自覚して、目の前の仕事に懸命に取り組むそうです。ブロンソン氏自身、逮捕された時には不正行為に絡む生活から抜けだせることに安堵し、もう戻りたくないと思って必死でした。

70 Million JobsがDemo Dayで示した資料によると、米国のリクルート産業の売上高は2015年に前年比5.4%増の1,470億ドル、それでも毎年600万件近い求人が満たされていない。

数十年前から変わらない社会復帰支援

雇用側のニーズを満たせる人材が、犯罪歴を持つ人たちの中にたくさん含まれることに企業が気づき、求職者の情報と効果的にマッチングされるようになったら状況は好転するはずです。でも、非営利組織で働いてみてブロンソン氏は、とても古いシステムの限界を痛感しました。受け入れてくれる会社を地道に探し、定期的に受け入れ可能な会社に連絡して求人情報を集め、登録してある求職者と照らし合わせるという作業を繰り返していました。有効ではあるけれど、それでは小さなコミュニティの活動に限られます。それをもっと大きく、7,000万人全員を対象にできるようにしたいと考えて至った結論がSNSです。
仕事を探す時に自分のマイナスポイントを率先してアピールする人はいません。ただ、それが犯罪歴だと、分かった時点で、すぐに不採用になってしまい、求職者にとってはジレンマです。70 Million Jobsに登録している人たちは、そこに求人してくる会社に犯罪歴で偏見を持たれるのではないかと恐れる必要はありません。雇用する側にとっても、犯罪歴のある人を採用する上で最も不安になる信用に関して、SNSでの活動や人とのつながりが履歴書以上に参考になります。

仕事の有無で劇的に変わる再犯率

ビジネスモデルは求人側から得る紹介料ですが、今後は犯罪歴のある人たちの社会復帰を支援する、自治体のプログラムとの関わりを強めていく計画です。米国で刑務所の費用が重荷になっている問題を解決するには、再犯率を下げなければなりません。犯罪歴のある人たちの監視を強めるのも方法の1つですが、それでは服役者が増える可能性があり、社会復帰率を高める方が大きな効果を期待できます。ロサンゼルス市によると、一度刑期を終えた人がまた刑務所に入る割合は53%と非常に高いものの、仕事を得られると7%、そして出所後すぐに得られた場合は3%に下がります。まだ結果は出ていませんが、今年前半に70 Million Jobsはロサンゼルス市のリエントリー・プログラムと連携した3ヵ月のパイロットプログラムを実施しました。
また、社会復帰支援プログラムを採り入れていない大企業に働きかけていくのも今後の目標としています。オバマ政権時代に作られたフェアチャンスビジネスプレッジによって、American Airlines、Starbucks、GoogleやFacebookなど、犯罪歴のある人の雇用を拡大する大企業が増え始めていますが、それでも採用に積極的な会社はトップが採用の責任を持つ規模の小さな会社が多いそうです。

無意識バイアスをなくす

70 Million JobsはSNSとしてユニークな機能を持つわけではありませんが、犯罪歴のある人に特化したSNSであることで、毎年約600万件もの規模になる、満たされない求人を削減できる可能性を秘めています。リスクを回避するために企業が犯罪歴のある人たちの雇用に慎重になるのは当然です。でも、それが無意識なバイアスになって、犯罪歴のある人は誰でもダメとなってしまうと、企業や社会の利益を目的とした機能的な決断から乖離してしまいます。70 Million Jobsが効果を発揮したら、その事業モデルの可能性はさらに広がるでしょう。年齢、学歴、性別、国籍、宗教など、仕事を得にくい理由は他にもたくさんあるからです。日本の場合だと、これから高齢者の求職と企業の受け入れの問題が深刻度を増すと予想できます。70 Million Jobsに話を戻すと、仕事を得ても再び罪を犯す人を受け入れてしまう可能性は否めません。そのリスクをとってでも、バイアスによる見えない壁の排除に踏み出すことに価値はあるのか。バイアスを効果的に除くのが難しい犯罪歴で、もし成功できたら、あらゆる面で無意識バイアスをなくす取り組みを行いやすくなります。そうなると大きな経済的効果が期待できるだけに、Y Combinatorが70 Million Jobsを支援しているのもうなずけます。

原稿: 山下洋一
サブカルチャーとテクノロジーの交差点に軸足を置いて、人や会社、文化、時事問題など幅広く取材しています。シリコンバレーで暮らし始めて10数年。PC産業の街がウェブ・ITの一大拠点に姿を変えるのを目の当たりにしてきました。ダイナミズムと人の面白さに魅了されて、このカリフォルニアの田舎街から離れられずにいます。

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