ITエンジニアのための勉強会・イベントレポート情報メディア

iPhone X登場で注目される
news

iPhone X登場で注目される"顔認証"、パスコードを超えられるか?

2017.11.15

 
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

米Appleが「iPhone X」を発表し、ロック解除やユーザー認証に用いていた指紋認証機能「Touch ID」を顔認証機能「Face ID」に変更しました。それによって顔認識技術への注目が高まっています。その認識精度を気にする人が少なくありませんが、機械学習を用いた顔分析の精度は非常に高く、これから加速するであろう普及ペースに合わせてプライバシー保護や法整備といった環境を迅速に整えていかないと、顔から個人情報が流出するリスクが膨らみます。

山下洋一

黙秘できるパスワード/パスコード

想像してみて下さい。何かの間違いで、米国で取り調べを受けることになってしまいました。状況を確かめたいから、あなたのスマートフォンの中を確認したいと捜査関係者が要求してきました。たとえ犯罪に関わっていないからといって、快く何でも情報を提供していたら、自分に不利な情報を与えることになりかねません。そこは専門家と相談して慎重に進めるべきです。では、パスワード/パスコードだけでスマートフォンを保護しておくのと、指紋認証でも保護しておくのとどちらが安全でしょうか?

答えは「パスワード/パスコードのみ」です。

数字や文字の羅列で予想もしやすいパスワード/パスコードに比べて、各個人固有の指紋を使った認証は本人以外には解除できないという安心感があります。でも、捜査関係者は指紋認証を使ったスマートフォンのロック解除は要求でき、パスワード/パスコードでのロック解除は無理強いできません。これは2014年に米国のバージニアビーチ巡回裁判所において判事が下した判断が理由になっています。指紋は「モノ」と見なされ、DNAサンプルや鍵などと同じように捜査関係者が扱うことが認められます。一方、パスワード/パスコードは本人が覚えているだけなら、それは「知識」と見なされ、米国憲法修正第5条の「黙秘権」の対象になるのです。

説明の理屈は通っています。でも、腑に落ちない感じがするのも否めません。実際、パスワード/パスコードのみが黙秘権の対象になることに異を唱える人が少なくありません。こうしたことが起こるのは、生体認証に関する法的な整備がまだしっかりと整っていないから。まだ発展途上なのです。

iPhone Xが顔認識技術の普及を加速

そうした中、米Appleが9月12日に「iPhone X」を発表、ロック解除やユーザー認証に用いていた指紋認証機能「Touch ID」を顔認証機能「Face ID」に変更しました。画面に顔を向けるだけなので、指紋認証よりも簡単なプロセスでユーザー認証が完了します。同社は、いずれ顔認識がスマートフォンの標準的な認証方式として普及するとアピールしていました。

顔認識に関しては、「髪型を変えても大丈夫?」「双子やよく似ている人は認識されないの?」「眼鏡や帽子を付けていても認識される?」といった認識精度を気にする人が少なくありません。Appleによると、Touch IDの誤認識率が1/50,000だったのに対して、Face IDは1/1,000,000。20倍も安全です。それよりも今注意しなければならないのは、むしろ顔が鍵のように扱われる仕組みが普及する影響です。

iPhone Xが備える顔認証機能「Face ID」は、機械学習を用いてユーザーのことを学んでいくため、髪型や服装を変えてもしっかりと認識されるようになります。

たとえば、テーマパークやスポーツ観戦に顔認識で簡単に入場できたり、出勤や入退出の管理、防犯、マーケティング調査など顔認識はすでに様々なことに活用されています。震災後に見つかった所有者不明のアルバムや写真の持ち主を探すのにも用いられました。とはいえ、まだ一般的な仕組みではありません。それがAppleの採用をきっかけに普及フェーズへと加速すると予想されています。

顔写真から読み取られる嗜好や性格

一方で、顔認識はまだ多くの課題を残した仕組みでもあります。最も大きな課題がセキュリティとプライバシー保護です。Appleは個人データを端末内で安全に保管し、機械学習向けの個人データの解析処理も端末で行います。そして個人が特定されないように加工した必要最小限のデータを機械学習用にクラウドに送信します。iPhone Xがスキャンした顔のデータは端末にとどまるので、それらが何か別の目的で利用されるようなことは起こりません。でも、同じようなレベルのセキュリティやプライバシー保護が、他の顔認識システムでも提供されるとは限りません。

パスワードや指紋と違って、顔はそれ自体が個人の情報を示します。スタンフォード大学のミハイル・コジンスキー氏の研究グループが9月に発表した論文によると、機械学習手法を用いた顔写真の画像分析によって、その人が同性愛者であることが高い精度で判別できました。男性の場合は81%、女性は74%。画像が5枚あれば、それぞれ91%と83%になります。同じ写真を人間が見て判断した場合は61%と54%でした。私たちが意識している以上の情報を顔は備えており、それをアルゴリズムで読み取ることが可能なのです。自分が公にしたくない情報が暴かれてしまうなら、それはプライバシー侵害に等しいものになります。コジンスキー氏によると、このアルゴリズムを応用して、政治的な傾向、知能指数の高さ、性格、犯罪を起こす可能性などを知ることもできるそうです。

だからといって、マイナンバーやパスワードなどの保管と同じように、顔を隠して生活するわけにはいきません。それどころか、友達と撮った写真をシェアしたり、プロフィールとしてSNSに掲載したりと、人々は気軽に顔を見せているのが現状です。

誤認識が大きなトラブルを起こす可能性

顔認識がバイアスを助長する可能性も指摘されています。過去に観客席で暴力行為を行った人をスタジアムから排除するなど、顔認識は効率的にブラックリストを実行できるシステムになります。でも、過去に一度問題を起こしたからといって、機械的に様々な場所から、その人を閉め出すのが適切な対応と言えるでしょうか。その時に暴れた理由や、その人が本当はどのような人なのか、というような人が感じて判断する部分も大事です。

また、Face IDのように顔をしっかりと3次元的にスキャンするのではなく、スナップ写真など写りのよくない写真から顔の分析が行われると誤りが起こりやすくなります。そうした誤りで、要注意人物と見なされるようなデータが本人の情報に結びついてしまう可能性も否めません。

まずは安心して利用できる環境からスタート

顔認識は大きな可能性を秘めた発展途上の仕組みです。顔認識によって、私たちが予想もしていなかった素晴らしいことが起こったり、便利なソリューションが生み出されるでしょう。逆に、身に覚えのないブラックリスト入りのような、予想外のトラブルに直面する可能性も決して小さくはありません。

AppleはiPhone Xを未来に向けた製品として投入します。「未来に向けた」には「実験的な」という意味合いが含まれます。顔認識を良い方向に開花させるには、まずプライバシー保護を最優先し、人々が安心して使える環境を用意する必要があります。一昨年、iPhoneユーザーのロック解除を求めるFBIと対立したように、AppleはIT企業の中でも特にユーザーのプライバシー保護を重んじています。そんなAppleのプラットフォームは、顔認識システムを育むインキュベータとして最適と言えるでしょう。

その上で個人の安全や信用を守る技術や考え方を、広く社会に浸透させていく必要があります。さらに法的な整備も整えなければなりません。iPhone Xを使ったユーザーはFace IDで「ロック解除がちょっと楽になっただけ」と思うかもしれませんが、それは顔認識で社会が変わる未来への入り口に手をかけただけに過ぎません。開発者にとっても、ユーザーにとっても、その先を想像することがiPhone Xを今使う醍醐味になります。

原稿: 山下洋一
サブカルチャーとテクノロジーの交差点に軸足を置いて、人や会社、文化、時事問題など幅広く取材しています。シリコンバレーで暮らし始めて10数年。PC産業の街がウェブ・ITの一大拠点に姿を変えるのを目の当たりにしてきました。ダイナミズムと人の面白さに魅了されて、このカリフォルニアの田舎街から離れられずにいます。

iPhone X登場で注目される

この記事はどうでしたか?

おすすめの記事

キャリアを考える

BACK TO TOP ∧

FOLLOW