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「メールゲート」スキャンダル、ロシア問題、それでもメールを使い続けますか?
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「メールゲート」スキャンダル、ロシア問題、
それでもメールを使い続けますか?

2017.10.27

 
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誰もがアドレスを持っていて、あらゆる企業がコミュニケーションツールとして活用している電子メール。昨年の米大統領選挙における「メールゲート」スキャンダル、トランプ大統領の長男のロシア問題など、メールを証拠に風向きが変わってしまう事件や問題が続いている米国において、プライバシー保護や情報の秘匿が重んじられるコミュニケーションにメールを使う是非を論じる議論が広がっています。

山下洋一

メールが命取りに

以前ほど重要ではなくなったとはいえ、電子メールは今もあらゆる企業、そしてビジネスパーソンにとって欠かせないビジネスツールです。メールがないと仕事が回らないという人は多いと思いますが、メールは本当に信頼に足るコミュニケーション手段でしょうか。しばらく前にニューヨークタイムズに掲載された「What we lose when the world moves on from Email (世界中の人々がEメールを使うのを止めようとしたら何を失うか)」というファルハド・マンジュー氏のコラムをきっかけに、米国でメールの是非を論じる議論が広がっています。
Enronの粉飾事件で2003年に150万通以上のメールが公開された時には情報公開の大きな前進と評価されましたが、一方で重箱の隅をつつくようにメールを調べたメディアによって事件とは関係のない関係者のプライバシーまであぶり出されるという問題も起こりました。それから、メールは様々な事件の証拠として公にされてきました。捜査当局や裁判所の要請で提出されたものもありますが、中にはハッキングによって流出したメールが疑惑の裏付けになったケースも少なくありません。
昨年の米大統領選では、ヒラリー・クリントン氏が私的に設けたメールサーバで公的なメールを送受信していたことが問題になった時に、クリントン陣営のメールがハッキングによって漏洩しました。今問題になっているドナルド・トランプ米大統領の長男のロシア問題でもメールのやり取りに注目が集まり、先手を打つようにトランプ氏の長男が自らメールを公開しました。政治だけではありません。春にUberを失速させた企業倫理問題では、CEOのトラビス・カラニック氏が社員に送ったメールの内容から問題追求の手が経営陣に及ぶようになりました。メールをきっかけに、クリントン氏は大統領選挙で歴史的な敗北を喫し、トランプ氏の長男は政権の土台を危うくし、カラニック氏は休職に追い込まれています。

ビジネスツールとしてのメールの限界

米国のニュースでは、毎日のようにメールが話題になっています。不正や詐欺、好ましくない行為の証拠になっているため、あまり問題視されていませんが、本来なら漏れるべきではない情報がこれほど公になっているのは好ましいことではありません。ビジネスの機密情報や個人のプライバシーも簡単に漏れる可能性を示しているからです。
電子メールは半世紀以上も使われ続けてきたレガシーなコミュニケーション手段です。ただ、今日のインターネットを想定して設計されてはいないので、セキュリティ強化が積み重ねられていても根本的な解決にはなっていません。安全な通信手段と言いがたいのが現状です。しかも、メールには時間やロケーションを含む様々な情報が記録されています。「常識的に考えたら、トランプ氏のメールは、ビジネスのユニバーサルコミュニケーションツールというメールの役割を葬る最後の釘になるべきだ」というのがマンジュー氏の主張です。

誰もが使っている唯一無二の存在

多くの人が、マンジュー氏が鳴らす警鐘に賛同しています。でも、人々が脱メールできると考える人はほとんどいません。
メールを使うのを止めて私たちが失うものは明らかです。メールのメリットは、PC、スマートフォンやタブレットを使っている人のほぼ全員がユーザーであること。誰とでもコミュニケーションできる手段であり、それを失うことになります。マンジュー氏は、SlackやSignalなどモダンなコミュニケーションツールの使用を勧めています。そうしたプラットフォームに依存するツールによって、コミュニケーションの秘匿性は高まります。でも、社内で使用するツールとして統一されているならともかく、仕事で付き合いのある人が使用しているツール全てに対応するのは困難なことです。今でもメールでしか連絡できない人が少なくないことを考えると、メールを使わないというのは、特にビジネスにおいては現実的なソリューションではありません。

Radicatiのレポート「Email Statistics Report, 2015-2019」によると、2015年に26億人だった電子メールユーザーは2019年には29億人に増加します。また1人あたりのメールアドレスの保有数も1.7個から1.9個に増加する見通しです。コミュニケーションの主流がソーシャルに移っていると言われて久しいものの、今でもメールは成長しています。

Open Whisper Systemsが開発するSignalプロトコルを用いたメッセンジャー「Signal」、エドワード・スノーデン氏も推奨するプライバシー保護にフォーカスした設計、2017年には米上院議会のスタッフ間のコミュニケーション手段として認められた。

なぜメールを信用してしまうのか

だからといって、このままではさらに混乱が深まります。メールの現状を考えると、マンジュー氏のコラムのタイトルは「世界中の人々がメールを使い続けたら何を失うか」であるべきです。おそらく、マンジュー氏も脱メールがすぐに可能だとは考えていないでしょう。それでも「世界中の人々がEメールを使うのを止めようとしたら……」としたところに、人々に変化を想像させたいという意図が感じられます。
メールがトラブルの原因になっているのは「バンドワゴン効果」が働いているからではないでしょうか。誰でもメールアドレスを持っていて、あらゆる企業がコミュニケーションにメールを活用している……誰もがメールを使っていて、コミュニケーションとして頼りにしているから、メールは信頼できると思い込んでしまう。「みんなが使っているから安心」と思ってしまう心理効果です。

メールで失敗しないための対策

「まさか、そんなことは思っていない」と言うかもしれません。でも、情報漏洩に慎重になるべき政治家、専門家であるはずのITスタートアップのエグゼクティブですら不用意にメールを使っている現実が全てを物語っています。近年、企業のエグゼクティブになりすまして、送金を実行できる社員に送金指示のメールを送りつける「ビジネスメール詐欺」の被害に遭う企業が規模を問わず増加しています。メールの技術的な脆弱性をついた攻撃ではなく、メールアドレスさえ知っていたら誰でも連絡できるというメールの特徴をついたシンプルなソーシャルハッキングです。メールを信用しすぎず、メールで指示を受けた人がメールだけで処理せずに、電話など直接的な方法で確認するという古典的な対策で被害は防げるはずなのにダマされてしまっています。
メールを安全に使いこなすために、個々のユーザーがセキュリティのエキスパートになる必要はありません。センシティブな情報を扱うのにメールは適していないという意識を持つだけで、メールを便利なツールとして活用できるようになります。例えば、ニュースレターやメールマガジン、キャンペーンの通知など、グロースハッキングのツールとしてメールは効果のあるツールです。そして、センシティブな情報のやり取りにはモダンなコミュニケーションツールを活用する。そうした使い分けの徹底が、メールを巡る問題の現実的な解決策になるのではないでしょうか。

原稿:山下洋一
サブカルチャーとテクノロジーの交差点に軸足を置いて、人や会社、文化、時事問題など幅広く取材しています。シリコンバレーで暮らし始めて10数年。PC産業の街がウェブ・ITの一大拠点に姿を変えるのを目の当たりにしてきました。ダイナミズムと人の面白さに魅了されて、このカリフォルニアの田舎街から離れられずにいます。

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