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広告主を失うウェブ、オンライン広告を大幅削減して業績を伸ばしたP&G
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広告主を失うウェブ、オンライン広告を大幅削減して業績を伸ばしたP&G

2017.10.20

 
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スマートフォンの普及によってネットユーザーが急増し、広告支出をウェブに最も割いている企業が珍しくありません。そうした中、日用品大手のP&Gがデジタル広告の大幅削減に乗り出しました。フェイクニュース、広告費の獲得を狙った不正トラフィックなど、ネットのダークサイドが社会問題となる中、影響力のある広告主として大鉈を振るいました。しかも、デジタル広告を減らしながら業績を伸ばし、アナリストをアッと言わせました。

山下洋一

最も影響力のある広告主の撤退

米国で昨年、最も広告に費用を投じた企業はどこか、ご存じでしょうか。Kantar Mediaの分析によると、日用品大手のP&G (Procter & Gamble)でした。

P&Gは今、マーケティング業界で注目の的になっています。広告主としてウェブに大きな影響を及ぼす同社がデジタル広告の見直しに乗り出したからです。なんと1億〜1億4,000万ドルの規模でデジタル広告を削減しました。その結果、どうなったかというと、7月末に同社が発表した注目の4〜6月期決算は売上高・一株利益ともに市場予想を上回る好調なものでした。GoogleやFacebookの広告部門から悲鳴が聞こえてきそうです。

売上の大半をオンライン広告に頼るGoogleに赤信号

広告主がテロリスト支援者に

P&Gがマーケティングに潤沢な資金を投じ、またネットを重んじる姿勢に変わりはありません。それなのになぜデジタル広告を削減したのかというと、不正なトラフィックへの対策です。ボットによる広告クリックや広告収入を増やすことだけを目的としたコンテンツといった問題が顕著になっていました。

不正トラフィックの影響は広告費用の無駄だけではありません。P&Gがもっとも懸念したのがブランド価値への影響です。今年の春、YouTubeがテロリストやヘイト・グループの動画、暴力的・差別的な動画に広告を挿入していることを問題視した、いくつかの大企業がYouTubeへの出稿から撤退しました。P&Gもその一つでした。

もっとも、ブランド各社が今になってインターネットのダークサイドの存在に気づいたわけではありません。テレビの視聴者数、新聞や雑誌の発行部数が減少する中で、多くの消費者にリーチし続けるための手段としてモバイルに期待してデジタル広告の予算を増やし、デメリットも成長の痛みとして受け入れてきました。しかし、オンライン広告のブラックボックスのような不透明感の問題が深刻さを増し、露呈してしまったのがYouTubeの広告配置問題でした。つまり、不正トラフィックがブランド各社のマーケティング戦略見直しのきっかけになりましたが、問題は広告サポートで無料コンテンツを提供するモデルにあります。無益なトラフィックの奪い合いに陥る仕組みから解決されないと、今後も同様のトラブルが起こるでしょう。ブランドの価値を高めることが、企業が広告を出す目的であり、それをネットで実現するにはどうすればよいのか。ブランド戦略の再構築が、P&Gのデジタル広告削減の背景にあります。

すり込まれないブランド名

50年前だったら広告の場が限られ、テレビやラジオ、または全国紙や雑誌に広告を出せば、ブランドを全国の人たちにアピールできました。たとえ広告がブランド名をアピールするだけだったとしても、そうしたメディアの広告枠を取ることが、マーケティング戦略として効果を発揮しました。今、購買の新たな主流になろうとしているミレニアルズは、朝起きてすぐにスマートフォンをチェックし、スマートフォンを一日中持ち歩き、そしてベッドの中でも使うユーザーが珍しくありません。常に触れているのだから広告機会が増えたように思いますが、メディアの洪水の中で単に広告でブランド名をアピールしても、それだけでは消費者の印象に残らなくなってしまいました。だからといって、ネットの広告枠を独占するのは不可能です。

そんな時代に、どのようにブランドを印象づければ良いのでしょうか。新たな戦略の核となるのはブランド・アピールではなくブランド・アウェアネスです。消費者にとってブランドを気になる存在にする戦略。かっこいいブランド、イノーベーティブなブランド、面白いブランドというように興味を持ってもらえるようにします。そんなの「マーケティングの基本のキ」と思うかもしれませんが、もしアウェアネスを重んじていたら、YouTubeのトラブルのようなことは起こらなかったはずです。マーケティング戦略に長けた大企業でもまだ十分にアウェアネスを意識していません。

なぜTeslaがビッグ3を上回れるのか?

ブランド・アウェアネスでは、たくさんの人たちの意識を変える必要はありません。影響力のある人たちに認めてもらえたら、このソーシャルな時代には瞬く間にブランドの良さが口コミで広がっていきます。たとえば、P&GのライバルであるJohnson & Johnsonが7ミニッツワークアウトのアプリ「7 MINUTE WORKOUT」を無料提供していて、App StoreとGoogle Playで人気アプリになっています。アプリにJohnson & Johnson製品の広告は表示されません。コーチングアプリとして本格的で、そして役に立つアプリだからたくさんの人に使われています。そんな便利なエクササイズツールを提供するJohnson & Johnsonをユーザーが意識するようになり、7 MINUTE WORKOUTユーザーがJohnson & Johnson製品を手にするようになります。もしこれがいい加減なコーチングアプリだったり、広告だらけのアプリだったら逆効果でしょう。

目的に合わせて選べるプリセット、自由にエクササイズを組み合わせられるカスタマイズ機能を備えた7ミニッツワークアウト・アプリ「7 MINUTE WORKOUT」

新旧の違いを示すのがTesla Motorsです。電気自動車 (EV)がまだ普及していない段階なのに、Teslaは時価総額でビッグ3を上回る自動車メーカーになりました。同社はブランド・アウェアネスに巧みで、EVの未来を人々に想像させ、ディスラプションを起こせるメーカーとして人々に認められています。Teslaの車に乗る人はまだわずかですが、すでにTeslaは全米一位の自動車ブランドなのです。

広告主を失うウェブ

もちろんブランド・アウェアネスは実力や実行力が伴ってこそです。革新性をアピールしても、それを実行できなければ、炎上マーケティングとなんら変わりません。ブランド・アウェアネスに優れた企業の代表としてAppleが挙げられますが、同社はシンプルに「良い製品を作る」を是とし、ユーザー重視を徹底して、それが結果的に株主の利益につながるという考えで知られています。顧客の価値にこだわり、ユーザーファーストを貫いて素晴らしい製品を提供するから、Appleはブランドに人々の意識を引き付けられています。

P&Gの6月期決算の数字を見ると、オーガニックセールス、つまり同社の元からある事業の売上高の伸びが顕著でした。新たなブランド戦略が早くも効果を発揮して、P&G本来の企業価値が認められ始めたのかもしれません。これが次の決算でどのように変化するか。デジタル広告削減の効果に最終評価を下すのは、まだ尚早ではあるものの、P&Gの新たなマーケティングが成功するなら、今日のWebの無料モデルの土台が揺らぎます。GoogleやFacebookといった一部のプラットフォームの色濃い影響を変えられるか、オンラインマーケティングの未来を探るカナリア・テストとして注目されています。

原稿: 山下洋一
サブカルチャーとテクノロジーの交差点に軸足を置いて、人や会社、文化、時事問題など幅広く取材しています。シリコンバレーで暮らし始めて10数年。PC産業の街がウェブ・ITの一大拠点に姿を変えるのを目の当たりにしてきました。ダイナミズムと人の面白さに魅了されて、このカリフォルニアの田舎街から離れられずにいます。

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