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Googleの黒歴史と言われた「Google Glass」、失敗を糧に復活
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Googleの黒歴史と言われた「Google Glass」、失敗を糧に復活

2017.10.05

 
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ウェアラブルという言葉が一般的ではなかった頃に世界をアッと言わせたスマートグラス「Google Glass」。熱狂的なアーリーアダプタを獲得しながらも、正式販売にはこぎ着けられずに短期間で販売終了という残念な結果に。そのGoogle Glassが業務用で復活しました。前回の失敗を踏まえ、今度は「コンピュータを身に付ける未来」がしっかりと形になっています。

山下洋一

一斉を風靡したスマートグラス

Google Glassを覚えていますか?
Googleの開発者カンファレンス「Google I/O」で2012年に開発が公表されて大きな話題を呼び、「ウェアラブル」や「スマートメガネ」という言葉を広めたGoogle Glass。翌年にはエクスプローラ・プログラムという早期体験プログラムを通じて一般も含めた限定的な販売がスタートし、同プログラムに申し込みが殺到しました。ところが、実際に使えるようになってみると「役に立たない」「周りから怪しまれる」といった厳しい意見が噴出し、2015年1月に販売終了。Googleが思い描いた「コンピュータを身に付ける未来」がやってくることはなく、「Googleの黒歴史」という声も。そのGoogle Glassが2年半の時を経て復活しました。
新しいGoogle Glassはエンタープライズ・エディションです。名前が示すように業務用に特化されていて、4年前のような大きな話題にはなっていません。しかし、「コンピュータを身に付ける未来」がしっかりと形になっているという点で注目に値するデバイスになっています。

Google Glassはなぜ失敗した?

私はエクスプローラ・プログラムに参加して、しばらくGoogle Glassを使っていました。正直なところ、屋外では周囲の目が刺さってきて大変でした。ガジェット好きが多いシリコンバレーでも、Google Glassを装着して出かけると奇妙なものを見る視線がビシビシ飛んできました。でも、それは初代iPhoneが登場した時も同じで、機能的に理に適ったデザインになっていたら、最初は変なデバイスを使っていると思われても、普及したら普通になります。エクスプローラ版のGoogle Glassのデザインは言われているほどひどいものではなく、メガネに要求される軽量さとデザイン、スマートデバイスに求められる機能のバランスがよく考えられたデザインでした。
それでもGoogle Glassが失敗したのは、私はエクスプローラ・プログラムが原因だったと考えています。早い段階でハードウエアを提供して、Google Glassをどのように活用するか開発者と一般のアーリーアダプタにも考えてもらうのが同プログラムの狙いでした。夢のあるプログラムに思えますが、見方を変えると丸投げです。エクスプローラ版のGoogle Glassでできたことは音声によるWeb検索と写真/ビデオ撮影ぐらい。よく言うとシンプル、でも実態は骨組みだけでした。その状態で手にしても、サードパーティができることは限られます。初代iPhoneが登場した時を思い出すと、YouTubeやGoogleマップが標準アプリに含まれていて、そうした標準アプリを使いながらiPhoneという新しいデバイスの特徴を理解することで、iPhoneを活用していくアイディアを想像できました。
ハードウエアとして、Google Glassは失敗だったと見なす人は少なくありません。でも、私は実際にGoogle Glassを使ってみて、Glassではなく、ハードウエアを提供するばかりでプラットフォームとして育てることを怠ったGoogleの戦略に問題があったと思います。

エクスプローラ版のGoogle Glass。右レンズ前のプリズムで小さな透過型ディスプレイが右目の視界に重なって表示される。

産業用途で引き出される大きな可能性

私がエンタープライズ版を評価するのは、エクスプローラ・プログラムの失敗を踏まえた取り組みになっているからです。エンタープライズ版は業務向けの「Glass at Work」プログラムを通じて提供されています。同プログラムは、Google Glassの使い方を定めなかったエクスプローラとは異なり、「各企業が抱える問題の解決」を目的に、参加企業と緊密に協力しながらソフトウエアとビジネスソリューションを構築しています。
例えば、農業機器を製造・販売するAGCOでは注文の多くがカスタムオーダーであり、それぞれ異なる仕様を確認するために、作業員が10数メートル離れたノートPCと作業台の間を何度も往復していました。その度に作業が中断される非効率さを解決するというのがAGCOの希望でした。
Google Glass導入後は、作業を続けたまま音声操作で仕様書やマニュアルを参照したり、チェックリストを更新できるようになり、組み立て時間の25%削減、検査時間の30%削減を実現できたそうです。作業中もGoogle Glassに手順が表示されるので、熟練度の低い作業員でも作業をこなせるようになります。以前は10日を要していた作業トレーニングが3日で済むようになったそうです。
AGCOは、約100台導入しているGoogle Glassを今後18ヵ月で600台〜1,100台に増やす計画です。エンタープライズ版は1,300〜1,500ドルで提供されています。エクスプローラ・プログラムでは一台1,500ドル(約17万円)の高い価格も普及の障害と言われましたが、その価格帯でもAGCOは導入する価値を認めています。GE、ロジスティクスのDHL、ヘルスケアのSutter Healthなど、他のGlass at Workプログラム参加企業もGoogle Glassの導入拡大に積極的です。

AGCOの組み立て施設で使われるGoogle Glass、エンタープライズ版はプロセッサが強化され、プリズムもより大きな表示に向上、ワイヤレスが企業ネットワークに対応する。

モノの価値とコトの価値

エクスプローラ・プログラムは、冒険心にあふれるイノベータや、トレンドに敏感で他の消費者への影響力が大きいアーリーアダプタからユーザー拡大を図った「イノベータ理論」に適うマーケティングでした。でも、インフルエンサーを集められたにも関わらず、市販化を実現できませんでした。現在、製造施設などでエンタープライズ版Google Glassを使っているワーカーはイノベータでもアーリーアダプタでもありません。普通の人たちによって、Google Glassの価値が引き出されています。
Google Glassはアーリーアダプタと本当のユーザーの価値観が必ずしも一致しないという好例ではないでしょうか。つまり、モノの価値とコトの価値です。「1/4インチのドリルが100万個売れたのは、人々が1/4インチのドリルを欲したからではなく、1/4インチの穴を空ける必要があったから」、顧客は商品を買うのではなく、その商品が提供するソリューションやベネフィットを求めているというセオドア・レビット氏が「マーケティング近視眼」で説いている価値の創出です。
昨年いくつものVR (仮想現実)デバイスが登場しました。今年はAR (拡張現実)に話題が広がっています。VR市場やAR市場はこのまま順調に開花するでしょうか? Google Glassのエクスプローラ・プログラムの失敗を教訓にしたら、ただVRヘッドセットを売ろうとするだけではキャズムを越えられずに一過性のブームで終わってしまうかもしれません。今あるモノでは解決できていないコトを満たせるソリューションになってこそ、ウエアラブルデバイスのような全く新しいモノを人々は使い始めます。

原稿: 山下洋一
サブカルチャーとテクノロジーの交差点に軸足を置いて、人や会社、文化、時事問題など幅広く取材しています。シリコンバレーで暮らし始めて10数年。PC産業の街がウェブ・ITの一大拠点に姿を変えるのを目の当たりにしてきました。ダイナミズムと人の面白さに魅了されて、このカリフォルニアの田舎街から離れられずにいます。

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