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ロボットに雇用が奪われる!?自動化を推進するAmazonでは従業員が急増
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ロボットに雇用が奪われる!?自動化を推進するAmazonでは従業員が急増

2017.09.14

 
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日本ではAmazonの配送増加による流通破綻が懸念されていますが、米国では違った点でAmazonの急成長が話題になっています。それは雇用問題です。同社はAI (人工知能)やロボットの導入による自動化に積極的な企業として知られており、人々の雇用を奪う企業という批判の声を浴びています。ところが、Amazonが自動化を本格的に進め始めた2015年以降、同社の従業員数はすさまじいペースで増加しているのです。

山下洋一

従業員の増加が話題になった企業

1〜3月期に従業員数が前年同期比43%増、売上高は同23%増。たくさんの従業員を雇い入れている一方で、従業員数の増加ほど売り上げは伸びていません。これら2つの数字からだと、あまり効率的ではない経営を想像するのではないでしょうか。この数字は、誰でも知っている米国の有名な小売大手のものですが、どこだか分かりますか?
答えはAmazonです。同社は効率化や自動化に積極的な企業として知られています。物流倉庫にロボットを積極的に導入し、昨年シアトルにレジのないコンビニエンスストアをベータオープンさせて話題になりました。ドローンを使った配送サービスの開発にも率先して取り組んでいます。だから、Amazonの従業員数は減少し始めていると思っている人が少なくありません。ところが、同社の従業員数の伸びは減速することなく、それどころか自動化が本格的に進められ始めた頃に加速したままです。2016年末時点の従業員数は前年比48%増でした。AI (人工知能)やロボットの導入によって人の仕事が奪われるという声が強まる中、Amazonのデータはそうした懸念を覆すものになっており、同社の6月期決算の数字にも注目が集まっています。

2007年から2016年のAmazonの従業員数の推移

従業員1人あたりの売上高はライバルの倍

Amazonはロボットを活用した自動化によって、以前は1時間半を要していた、注文を処理するプロセスを最短15分に短縮しています。生産性の向上だけではありません。自動化が進んだ第8世代の物流倉庫は前世代よりも50%の省スペース化を実現しています。少ないスタッフでより多くの商品を効率良く発送できるようになっているのです。それなのに、なぜ従業員が40〜50%ものペースで増え続けいるのでしょうか。
最大の理由は、ここ数年Amazonが取り組んでいる物流倉庫への投資です。人口が集中している地域を中心に次々と物流倉庫を開設しており、2016年にはホリデーシーズンの前に26の新しい施設をオープンさせました。今年コロラド州ソーントンにオープンする物流倉庫は同州で2つめの物流倉庫であり、初のロボットによる自動化が組み込まれた施設になりますが、約1,500人以上の雇用を生み出す予定です。だからといって、Amazonの配送事業の効率が悪いというわけではありません。3月期のAmazonの従業員1人あたりの売上高は約10万2,000ドル。Amazonのライバルである実店舗型のディスカウントストアチェーンWalmartは約5万1,000ドルですから、Amazonの従業員はWalmartの2倍もの売り上げを生み出している計算になります。効率化が進む一方で、物流倉庫が爆発的なペースで増えているため、従業員が急速に増えているというわけです。

注文の入った商品が保管されている棚を、効率的なルートを通って
ロボットがスタッフの前に運んできて、スタッフが棚出し。

利益を取らずテクノロジーに投資するAmazon

Amazonの3月期決算の数字は、同社が成長戦略としているフライホイール (Flywheel:弾み車)効果を物流倉庫の自動化にも実践していることを示しています。大きく速く回っている弾み車も、最初は小さな一押しから動き出します。そして重い弾み車を押し続けていくことで、やがてビュンビュンと勢いよく回るようになります。Amazonのロボットの導入や効率化は、地道な一押しの積み重ねです。コスト削減と効率化による「低コスト構造」で価格を引き下げ、競争力のある価格によって利用者の「体験」が向上し、利用者のトラフィックが「上昇」すれば、Amazonで販売する売り手が増え、「品揃え」の拡大がまた利用者の買い物体験の向上につながります。そんな良循環がビュンビュンと回るようになったら、エコシステムがどんどん成長していきます。
利益をため込まず、将来の成長のための投資に充てるので、売り上げの伸びは抑えられます。でも、その効果で弾み車が回り始め、注文が順調に増加しているため、物流倉庫を増やし続けられるのです。売り上げの伸びを上回る従業員数の伸びは、その証です。

良循環の回転を加速させながら、核となる成長を
拡大させていくAmazonのフライホイール戦略

顧客の体験を向上させるのは「低価格」と「品揃え」だけではありません。収納密度が高く、注文の処理時間が短い物流倉庫が増えれば、より多くのユーザーに当日配送が可能な商品を提供でき、1時間配送のPrime Nowのような革新的なサービスも可能になります。そしてAmazonのプラットフォームを活用することで、スモールビジネスやスタートアップであっても、世界中の消費者にリーチでき、便利なサービスを提供できます。エコシステムの繁茂はパートナーにもチャンスをもたらします。

自動化は諸刃の剣

自動化で人々の仕事が減るのも事実です。同じ100万ドルの売り上げを、自動化によって、より少ないスタッフで実現できます。コストを引き下げる自動化は経営者にとって魅力です。でも、コストをカットするためだけの自動化で雇用機会が減少し、経済活動が冷え込んでしまうと、そのビジネスを含めて全体が不景気に覆われてしまいます。
大きな成長のためにテクノロジーを活用してこそ、社会全体に恩恵が広がり、巡り巡って企業の成長につながります。Amazonのフライホイール効果について、O'Reilly MediaのCEOであるティム・オライリー氏は「大きな視野で、これまで想像できなかったことを実現するためのテクノロジーの活用、テクノロジーを適用するための最高のデザインパターンと言える」と評しています。人々の仕事を減らすのは、AIやロボットといったテクノロジーではないというのがオライリー氏の主張です。大きな成長を思い描けず、目先のコスト削減や利益のためだけに自動化を利用する想像力に欠けたビジネス判断に、人々や社会が成長できるチャンスが潰されるのです。

原稿: 山下洋一
サブカルチャーとテクノロジーの交差点に軸足を置いて、人や会社、文化、時事問題など幅広く取材しています。シリコンバレーで暮らし始めて10数年。PC産業の街がウェブ・ITの一大拠点に姿を変えるのを目の当たりにしてきました。ダイナミズムと人の面白さに魅了されて、このカリフォルニアの田舎街から離れられずにいます。

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