
Enterprise APIs Hack-Night #9 「MobiTech(Mobility)× API」
自動車とAPIの組み合わせで何が生まれるか
APIは様々な分野でビジネスの活性化に貢献し、APIを活用したスタートアップによる新規ビジネス創出などが、特に注目を集めています。今回は自動車産業とAPIをテーマにした勉強会「MobiTech(Mobility)× API」に行ってみました。自動運転を始め、IT連携が注目されている自動車とAPIの組み合わせでどんなシナジーが生まれるのか、ものすごく興味があります!

会場は、日比谷線神谷町駅から徒歩数分の株式会社ウフル。周辺には各国の大使館も数多くおかれ、瀟洒で落ち着いた雰囲気のエリアです。近未来的な印象のエントランスを抜けると、リゾートホテルのラウンジのようなスペースが広がっていました。
Enterprise APIs Hack-Night とは?

コンシューマー向けサービスの印象が強いAPIですが、企業間ビジネスでの活用も増えているそうです。Enterprise APIs Hack-Nightは、企業間連携におけるエンタープライズレベルのAPI活用に関する知見の共有や情報交換をめざしたイベントで、NTTコミュニケーションズ株式会社によって運営されています。
「×Tech」をテーマにした2016年度は、FinTech(金融)、EduTech(教育)、MarTech(マーケティング)、AgriTech(農業)などの各分野でのAPI活用が取り上げられ、今年度最後となる第9回は「MobiTech(Mobility)」、自動車産業がテーマです。
激変する自動車産業におけるIDOMの戦略

トップバッターは中古車販売の最大手、株式会社IDOM(旧社名;株式会社ガリバーインターナショナル)の許さん
激変する自動車業界
自動車業界では、メルセデスやフォードのトップらが製造・販売からサービスへの移行を公言しています。

IoTや人口知能の連携などでサービス化、自動化が大きな流れになっていくと考えています。IDOMは主力の流通事業に加えて、CaaS(Car as a Service)をセカンドプライオリティとして取り組んでいます。クルマの個人間売買アプリ「クルマジロ」(https://kurumajiro.com/) 、サブスクリプションサービス「NOREL」(https://norel.jp/)などの新規事業や自動運転などの研究開発に積極的に取り組み、エンジニア層を積極採用しています。
市場としては、中古車の個人間売買やオンライン販売の増加が予測されます。また、自動車流通は、Level3(自動運転もしくは機械による運転補助)への乗換え需要で、一時的に活況を経て、やがては深刻な打撃を受けると推測する向きもあり、こういった危機感に動かされて、IDOMではITなどの新領域に積極的に取り組んでいます。
激変する?自動車産業の展望
続いて、許さんの個人的な見解として自動車産業の中長期的な展望が紹介されました。

公共交通機関の自動運転化が実現すれば、街づくりやエネルギー産業、ライフスタイルにまで影響し、Mobility全体に革命が起こる可能性があります。現在は自動車流通として何をすべきかという分岐点であると考えています。長期的には、自動車は所有から非所有(利用)へと移行していき、自動車そのものではなく、移動需要や移動の目的にフォーカスすることが重要だと考えています。IDOMはそうした流れへの布石として「NOREL」をリリースしました。
自動運転の要素技術であるディープラーニング、強化学習、認識などは国内でも研究開発が進められています。多様の新領域のどこに参入するかは、投資などの参入障壁が低いものは市場としてもポテンシャルが小さく、ポテンシャルが大きい分野は技術的にも投資も参入障壁が高いという傾向から、慎重な投資判断が必要になります。数少ない成長市場である移動体通信、IoTの分野で車とインターネットの連携には特に注目しています。
現在の車のインターネット回線は156kbps程度ですが、北米で車載のギガビットイーサネットの規格を定める動きがあります。高速通信のインフラが整うことで、携帯電話を活用したビジネスが一気に拡大したのと同じ状況が、自動車産業にも生まれる可能性があるのではないかと考えています。
CaaS時代に向けての戦略

個人的には、IDOMAの既存事業と強みを生かしながら、新分野に取り組んでいくべきと考えています。3ヵ月単位で車を乗り換え放題の月額定額制サービス「NOREL」は、ローンを組めない方から高級外車を何台も所有する方まで、多様なお客様が集まりました。この顧客情報やニーズを分析してサービスをリニューアルする予定です。4月からはテレマティクスを導入して位置情報、運転状況などのデータ収集を開始し、将来的には在庫状況や顧客属性などと合わせてAPI化したいと考えています。
また、個人間売買の促進は中古車流通の領域を侵す行為ですが、「クルマジロ」によって、IDOMの営業は「IDOMに売りますか、個人で売りますか」という選択肢を持つようになり、中古車流通からソリューション営業の動きへと変わりました。
非所有層ではなく、所有層の利用リプレイスをターゲットとして利用需要にリーチするには利用者のデータベースが基盤になります。今後もさまざまなサービスを通じてデータベースを拡充させ、横断的にニーズを把握することでシナジーを生み出せると考えています。
つかれが"みえる"
- 着られるセンサーで車両安全運行管理

続いて、NTTコミュニケーションズの増田さんから、ウェアラブルを使った実証実験 (http://www.ntt.co.jp/news2016/1609/160915a.html) についての発表です。
交通事故の原因のひとつ
“つかれ”を可視化する実証実験

営業用バスの運転手の平均年齢は48.5歳、バスの運転手の高齢化は進み、人手不足も日本に限らない課題となっています。安全対策としてデジタルタコグラフやドライブレコーダなど、もの(車)から情報を得るしくみは普及していますが、ひと(運転者)を把握する必要はないのかというのがプロジェクトの課題認識でした。
実証実験が行われた経緯と目的、
そして「つかれ」が見えた!
このプロジェクトは、NTTコミュニケーションズとSAP社との包括的な提携関係の中で、世界共通の社会課題の解決に取り組もうということで実現しました。両社はともにF1チームのスポンサーをしており、SAPはレースにおけるデータ解析などの協力もしています。
バス運転手の疲れや緊張度合いを数値化することができれば、安全対策や運行管理に役立つのではないかという仮説の下、福井県全域をカバーする京福バスの協力を得て、ウェアラブルを着用した運転手のバスに同乗して運転中に発生した状況を記録し、記録されたデータと比較しながら分析しました。

長距離バスの運行では、運行時間の後半では疲労の度合いが大きくなること、仮眠により疲労回復が見られることなど、路線バスではお年寄りが乗降する場所で緊張が高まることなどが明らかになりました。こうしたデータを踏まえて、運転手や運行管理者のインタビューを重ね、事故削減につながると思われる仮説が見えてきました。
APIがあったからこその実証実験のスピード感
BtoBでは、ウェアラブルの使用目的を明確にするだけでなく、データのノイズや欠損対策、バッテリーの持ちなど、ビジネスプロセスとの適合性を踏まえて選択する必要があります。今回使用したNTTとTORAYが共同開発したhitoe
(https://www.nttdocomo.co.jp/info/news_release/2014/01/30_00.html) は、iOSやアンドロイドの開発キットも提供されていますので、個人で購入して試すこともできます。

APIの活用で速やかにサービス化できました。ウェアラブルで収集した情報をNTTコミュニケーションズのIoTプラットフォームのHealthcareパッケージに蓄積し、APIゲートウェイを活用して、SAPのConnected Transportation Safetyと連携、解析結果を運行管理者が閲覧できるようにしました。

APIゲートウェイには情報の蓄積、分析、通知などのAPIサービスが用意されています。IAM (Identity and Access Management:アクセスを制御するための仕組み)の権限階層の拡張を行うことで、間接販売(卸)の商流にも対応できます。

プラットフォーム上での通常のストリーミング分析に加えて、仮説検証のために生体情報のクレンジング、アドホック分析が必要だったため、Jupyter Notebook(コーディング環境、IPython Notebookから名称変更)上で、R(統計分析用フリーソフトの言語)を使用しました。同一環境上でRとPythonを実行することができ、作業手順を保存しながら、再現可能なデータ分析プロセスを作ることができます。例えるなら、構築手順書とソースコードをまとめた「ノート」として保管でき、そのまま実行できるという感じです。
今回はSlackの活用などでグローバルに分散した開発拠点ながら一体感を持って仕事を進めることができ、エキサイティングなプロジェクトでした。全体を通してより安心で、安全な交通に貢献するためのビジネスや技術、プロセスであり、ウェアラブルの利用は他の領域にも適用できると考えています。
ヒトとクルマと業務をつなげる
コネクテッド・カーアプリ「Cariot」のAPI

フレクトの遠藤さんの発表は、車載デバイスとクラウド技術を活用したコネクテッド・カーアプリ「Cariot(キャリオット)」(https://www.cariot.jp/) がテーマです。「Cariot」は、Car(車) とIoTを組み合わせて命名されたそうです。
コネクティッドカーサービス「Cariot」とは
Cariotは、デバイスから顧客体験までを一気通貫で提供するBtoBtoXのクラウドネイティブなコネクティッドカーサービスです。「今日から使える」をテーマに提供しています。

車載デバイスから取得したデータをCariotPlatformに蓄積、APIを介して提供するアプリケーションから、お客様がデータを利用します。SaaSで提供するアプリは毎月新機能をリリースし、独自のカスタマイズもできます。
- ・Salesforceネイティブ:車両管理、勤怠管理のコア機能のみのパッケージ。カスタマイズ性が高く、レポートや管理項目はプログラミングなしで追加。
- ・Salesforceカスタム:パッケージのJavaScriptAPIを利用してカスタマイズ。CariotのREST APIのラッパーや地図画面のカスタマイズ用のユーティリティを提供。
- ・フルカスタム:CariotをAPI Platformとして利用し、その中で自社システムへの組込みや公開サイトなどで使用するアプリケーションを独自に開発できる。
走行記録機能による運行管理や運転日報の自動作成、車両予約・実績管理、車両の稼働率レポートなどの機能があり、社有車の最適化や業務改善に役立てられます。これらの機能をSalesforceのダッシュボードで、一元的に可視化することができます。
2016年4月のリリースから20社以上の企業に導入され、報告書作成の省力化、コスト削減などの成果につながっています。
Enterprise APIで大切なポイント
Enterprise APIで大切なのは、データと業務の間のギャップを埋めるイメージであり、ユースケースが開発の原点と考えています。サービスの機能ではお客様、APIは開発者と、使う側の目線を重視して開発に当たっています。

API設計にプログラミングの原則をあてはめ、品質を維持できるよう心がけています。また、API設計で失敗しないために、後方互換性の維持などのポイントに留意しています。

Cariotのアーキテクチャー

AWS(AmazonWebService)のAmazon API Gatewayをリバースプロキシのように使用し、APIのフロントは全てAPI Gatewayが受け、複雑な処理は後方のWebアプリケーションやAWS Lambdaに処理を委譲しています。シングルエンドポイントで統一感のあるAPIを提供しています。
事例:Cariotの到着予測機能
到着予測機能は、配送業者のユースケースから生まれたAPIです。配送待ちの時間や安全へのリスクを解消します。地図上で出発地点を登録すると車両の位置が表示され、お客様だけが閲覧できる車両情報のURLを通知できます。

ルートを登録するAPI、画面でデータ取得するために車のリアルタイム情報を返すAPI、出発や到着をトリガーにしてPushするWebhookで構成され、API仕様も公開しています。車からCariotのAWSに対して3秒に1回、UDPを送り、裏側でAWSのKinesis Streamがデータを受け、AWS Lambdaやアプリケーションがイベント処理を行います。
コネクティッドカーは、車と業務と人をつなげてより良い社会に還元されていくべきであり、将来的には車のデータと他のデータを組み合わせて、新たな価値や相乗効果を生みだしたいと考えています。機能だけでなく、感性にも訴えられる製品に成長させたいと思っています。
まとめ Enterprise APIが新ビジネスを生み出す


最近の自動車産業は、自動運転などのITとの関わりが注目されてきました。将来的に、自動車や自動車を利用する人から得られる情報を活用した、新ビジネスが生まれる可能性もあります。その際、BtoB を視野に入れたAPIがあれば、短期間、低コストでビジネスを立ち上げることができ、より挑戦しやすくなります。このイベントに参加して、EnterpriseAPIはサービスやアプリ活用の可能性を拡げ、ビジネスチャンスを生みだすものと理解できました。